無限に成長し続けていかないといけないビジネスモデルの問題点というサブタイトルがあったので、普段の仕事の勉強にもなるのではと思い読んでみました。

読んでみて結局、紙の大会を盛り上げることが大事なんじゃないかと思いました。


毎日金の卵を産んでくれるガチョウのおかげで農家は裕福な暮らしを手に入れましたが、やがてその暮らしでは満足できなくなり、ガチョウのお腹を切り開いて中に入っている金の卵を全部取り出せばいいと考えました。ガチョウのお腹を切り開いた結果、中身はふつうのガチョウと一緒で、農家はもう二度と金の卵を手に入れることはできませんでした。


毎年の成長を投資家や株主は望んでいますが、永遠に例えば毎年5%の成長を続けていくことは不可能です。

2022年10月4日、ハスブロ社は今後3年間で50%の成長をすると発表しました。WoCは今やハスブロ社で最も収益性の高い事業部門(crown Jewel)で、MTGがWoCのcrown Jewelです。
これは2021年のWoCの大成功から来ていて、WoCは2021年の利益が2020年に対して30%増でした。WoCは5か年計画で収益を倍にすると言っていましたが3年で達成できました。もしあなたが、これら2つの情報しかMTGについて知らないなら、MTGは黄金時代に突入しており、人気が爆発してプレイヤーたちも満足していると信じるでしょう。

では、パンデミック下でローカルゲームショップが閉店したり苦しんでおり、大きな大会も開催されず、MPL廃止により競技大会のルールもひっくり返った中、WoCはどのようにして2021年の成長を達成したのでしょうか。

WoCの行ってきたことを整理すると3つの柱が見えてきます。成長し続けるための一本道はなく、これらのことを同時に行い続けなくてはいけません。
1.Univers Beyond(Walking of the Deadとのコラボ等)、Arena、統率者へより注力、ハイエンド(高級な)カードを集める文化の抱え込み。
2.Secret LAIR、マスターズ、ホライゾン、コレクターブースターによるセカンドマーケット(=カードショップでのシングルカード販売など)に流れるはずだったお金の刈り取り。
3.リリース頻度を増やしたり、魅力的なサブセットを増やしたり、コレクターブースターを出したりといった既存プレイヤーから得られる利益の最大化。

なぜMTGのカードにそれほどお金を出す価値があるのか?カードショップにカードの束を持って行っても思ったより高くないし、ドラフトした後のカードは大量に捨てられているのに。

それには以下の3つの理由があると思います。これらはバラバラの柱に見えますが、ジェンガの中盤戦のように、お互いを支えあっています。

遊ぶために必要だから。これは最も明らかな理由です。FNMなどの公式の大会に参加するためには実際にカードを持っている必要があります。
集めて自慢するのが楽しいから
カードが値上がりするから

WoCはここで問題を抱えています。カードの値段を上げ続けるためには、値段が高くて、収集しがいのあるカードを供給する必要がありますが、値段を上げるためには人々の興味を引き付けて需要が供給を上回っている必要があり、頻繁に再印刷することができません。

昔はスタンダード用のセットしか作っていなかったため、統率者とかで使えるからとカードを買って長期的に持っていることをプレイヤーに対して正当化できていました。その後、モダンマスターズを発売しましたが、すぐに売り切れて、モダンの定番カードたちの値段はちょっと下がりましたがすぐに元の値段に戻りました。

しかし今やSecretLAIRなども含めて当時の倍の製品がリリースされ、定番カードたちも再印刷されています。最新のすごいレアカードに投資したいでしょうか。WoCがよりレアなカードを再印刷したら価値が下がります。

30周年記念パックについて、プレイヤーと企業投資家は毛嫌いしていますが、それぞれ反対の理由からです。プレイヤーたちは$999の値段はふざけていると思っているし、採録禁止リストを撤廃してより安い値段で通常のカードが手に入るようにして欲しいと思っています。
一方、投資家たちは、このパックから出てくるカードが公式大会では使えないとはいえ、採録禁止リストのカードを印刷してほしくないと思っています。ジェンガを崩壊させるブロックを抜き取るようなものだと考えています。しかし実際は30周年記念パックでデュアルランドの値段は下がっていません。

一方、値下がりが顕著なのはモダンの定番カードたちです。瞬唱の魔道士や沸騰する小湖が70ドルから5ドルになるのを期待するのは間違っていません。
もしお金に問題がなければ70ドルで買ったカードが20ドルに下がることは問題ないですが、そんなにお金に余裕があるわけでもないのに70ドルで買ったカードが20ドルに下がるのであれば、再びカード1枚に70ドル払うことを正当化できるでしょうか。
カードの価値が変わらなければ、少し遊んだ後に売り払って大きな金額を失わずにすみますが、最初は高くて徐々に値段が下がっていくのはお金が余っている人以外にはよいことではありません。
30周年記念パックやSecretLAIRやコレクターブースターもカードの価値がなくなってしまうのであれば、みんな買わなくなってしまいます。WoCはプレミアムプロダクトを印刷し続けたいですが、それができません。



MTGは終わりだという意見に対して、反論をしておいたほうがよいと感じています。

MTGは(ウォルマートみたいな)大口商店の棚からは消えていません。多くの大型商店ではスポーツカードやTCGの棚を他の会社と契約して貸し出していますが、そこで売れ残っているパックを新しいパックと入れ替えることが起きているのは事実です。しかしそれはこれまでもありました。

また、MTGはポケモンカードよりも人気があるゲームで、30年近く共食いせずに共存してきました。

オンラインでの売れ行きも好調で、2022年にはパックやボックスの値段が下がった製品もありましたが、それはMTGが買われなくなったからではない理由があると考えています。

1点目は、輸送が不安定であったため、いくつかの製品は発売日に間に合わせるために過剰に生産したというのがあります。
2点目は、コレクターブースターが、WoC社がいうほどの価値がなかった点です。この点についてはWoCは改善に取り組んでおり、シャッタードグラス版のプレインズウォーカーや、兄弟戦争のレトロフレームのアーティファクトなど、長期的に持っていけば価値があがるかもと思わせるようなものになっています。しかしコレクターブースターがその価値を維持できていないことが、MTG全体が製品の出荷に失敗しているとはなりません。

MTGは良好で、この先10年間は生き残ります。


Wizardsは彼らの道を正しく塗りなおすことができると考えています。

まず、彼らは全部の金の卵を統率者のバスケットに放り込むことはできません。Secret LAIRやコレクターブースターを売りたければ価値のあるカードを刷らないといけないし、そのためにはスタンダードやモダンといった方向からのカードへの需要が必要です。またこれらはArenaからテーブルトップイベントへの分かりやすい道筋になります。

続いて、プレイヤー数を増やし続ける必要があります。ウォーハンマーやネオ神河は成功例でした。ウォーハンマーの強力かつフレイバーも持たせた統率者デッキは前に進むためのよい製品です。

3点目は、カードの価値が下がらないように採録の頻度を減らすことです。

4点目は、ネオンインクとかシャッタードグラスとか通番とかいろいろ出して、どれが価値があるのか、数量限定なのか追いきれなくなるようなことを止めるべきです。スポーツカードのようにルールを決めるべきです。

5点目は、複雑さを排除することです。統率者デッキが2つだけ出ることもあれば4つも5つも出ることがあるし、コレクターブースターからは統率者用のカードが出るけどそれらは統率者デッキには入っていなかったり。


ハスブロは金のガチョウを殺しはしないでしょう。

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